†夢の掛橋†第5歩
みなさまこんにちは、夢の掛橋管理人西村 茉莉です。
さて、今回のお話は当時大好きだった、そして今でも大好きなkagrraと言う和風ビジュアル系バンドの曲「うたかた」を小説化したものです。
元々はボーカルの一志が飼っていた愛犬を失った時に作った曲ですが、当時の西村なりに精一杯アレンジしてみました。
では、どうぞ…
†…†…†うたかた†…†…†
静かな暗い夜。うすら寒くなってきた月明かりの真下で一人海辺に佇んでいた。
悲しくて涙も止まりそうにない。頭では理解していても、今はただ泣いていたかった。
「こんなとこにいたって何も変わらないのに…」
……………………………………
「何飲みたい?」
明るく笑い掛けるのは軽く日焼けした笑顔はとても爽やかで、優しくて穏やかだった。
「そうね、弘樹が選んだ奴ならなんでも良いわ。」
言っておいて少し恥ずかしいのか顔を隠すようにメガネを掛け直す。
静かなダイニングバーのカウンター。二人がデートすると必ず寄る店だった。
あまりアルコール慣れしていない美冬を連れてくるには少し危険な気もするが、酔い潰さないようにコントロールしながらも、一緒に飲むのが弘樹の楽しみでもあった。
「ジンさん、カシスベースで甘めに飲みやすいのをお願い出来ますか?」
良い感じに酔いが回ったところで静かな海辺へ移動する。柔らかな海風が弘樹たちを包むのがなんとなく心地良く、二人のお気に入りのスポットだった。
「このまま全てが終わってしまえば良いのに…」
不意に美冬が口を開く。らしくない後ろ向きな発言に弘樹は少し苛立った。
何故美冬がそんな事を思ったのか、理解出来なかった。
「なんだよ美冬…俺はもっと美冬といろんな景色みたい。そういうの、ねぇのかよ…」
「そういう意味じゃないわ。ねぇ弘樹、例えば今二人で死ぬとする。
死んだ後の世界なんて本当にあるかさえわからない。今幸せなまま死ねるのよ?それはとても幸せな気がするの。」
理解出来なかった。
死んだらもっと楽しい事や幸せな事を感じられないじゃないかと。
「それって逃げだと思う。今ここで死んだらこれから先の苦労から逃げる事になるんじゃないか?
辛いこともあるけど、絶対楽しいこともある。俺は美冬と越えて行きたい。」
恥ずかしげもなく言えるのは、周りに誰もいない秋口の寂しい月夜の海辺だからか、
はたまた美冬が今にも死んでしまうのではないかと感じられたからか、それは弘樹にしかわからない。
その夜はよく行くホテルで朝までゆっくりと過ごし、お昼過ぎまで一緒にいた。
「弘樹、ごめん私今日これから仕事だから…」
「そっか、無理すんなよ。」
昼食をとり終わり、そろそろ出ようかと言う頃美冬が言い出した。
割りとよくあることだったから特別気にもせず、ただいつも通りに背中を押した。
「うん、ありがとう。行ってきます」
まさか、それが最後になると思わずに…
次に携帯が鳴ったのは美冬の親からだった。ずっと幼なじみで美冬の体質も知っていた弘樹は何かあったら困るからと、母親の連絡先だけは知っていた。
「ひ…ろき…くん?」
「おばさん?どうしたんですか?」
泣きつかれた声の美冬の母。美冬に何かあったのかと不安になる。
パニックの発作を起こしただけではなさそうな雰囲気だった。
「美冬が…弘樹くん、とりあえず市大病院これるかしら?」
焦りが募る。
仕事なんて嘘だったのか、それともパニック起こして車に飛び込んだのか、いろんな感情が頭を過る。
「生きててくれ美冬っ」
タクシーに飛び乗って市大病院まで。美冬の安否以外頭に浮かばなかった。
昨日のらしくない台詞。自分の否定した台詞。背中を冷や汗が流れる。
病院前に着くと美冬の母が呆然と立ち尽くしていた。
「美冬…海に飛び込んだらしいわ。もう助からないって状態で病院に運び込まれたらしいの…」
静かに口が開かれる。ふっくらとした唇のラインや長い髪、パッチリとした目元がそっくりな二人の面影が重なり、事実なんだと頭では理解出来た。
だが、心まで到達していないのか涙は浮かばない。
「おばさん、美冬に会わせて貰えませんか?」
それしか今は出来ないのだと思った。弘樹にとって美冬は大事な彼女だ。それを失ったのは自分の責任だとそう感じた。
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美冬を失って1年が過ぎた。弘樹にとってこの1年はあっという間だった。
あの時美冬が言った意味を今なら理解出来る。でもそれじゃ遅かった。あの時理解してればと何回悔やんだだろう。
今弘樹がいる海が美冬が身を投げた場所だった。幾度後悔しようと現実は変わらない。
だからこそもう前を向かなければと、いつかまた何処かで会えるのだと、そう確信して弘樹は立ち上がった。
†…†…†あとがき†…†…†
はい、いかがだったでしょうか?
当時の精一杯とは言ってもあくまで20歳そこそこの作品ですからね、今書き直したらきっとまた雰囲気も内容もガラリと変わるのかなと思います。
この作品の中でチャレンジした事は一人称の目線ではなく三人称で書いてみた事ですが、これを書いてみてやはり三人称は苦手かなと思ったのを今でも覚えていて、きっとこれからも三人称では書かないかなと思っています。
またいずれ書いてみたいものですね。
では、またお会いしましょう。